奈良家庭裁判所 事件番号不詳 判決
本籍 奈良県宇陀郡大宇陀町大字西山百五十八番地
住所 右同所
料理旅館業 久子こと鍛治本ヒサヲ
明治三十八年十二月十七日生
主文
被告人を罰金八千円に処する。
右罰金を完納することが出来ないときには金二百円を一日の割合に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
罪となるべき事実
被告人は奈良県宇陀郡大宇陀町大字西山に於て料理旅館業ひさご荘を営んでいる者であるが、
(一) 十八才未満の被告人方酌婦○本○子(昭和十二年十一月三十生)をして昭和二十八年九月十五日頃から同年十月十五日頃迄の間右旅館に於て氏名不詳の男客数名を相手として売淫させ、
(二) 十八才未満の被告人方酌婦○口○ヨ○(昭和十三年二月十二日生)をして昭和二十九年四月十二日頃から同年十月二十七日頃迄の間右旅館に於て氏名不詳の男客十数名を相手方として売淫させ、以て児童に淫行をさせたものである。
証拠の標目
左記の証拠を綜合して判示犯罪事実を認定する。
(一)の事実に付
(イ) ○本○子に対する身上調査に関する照会書竝回答書
(ロ) ○本○子に対する司法巡査作成の供述調書
(ハ) 被告人に対する司法巡査作成の第一、二回供述調書
(ニ) 被告人に対する司法警察員巡査部長作成の供述調書
(ホ) 被告人に対する検事作成の供述調書
(ヘ) 被告人の当公廷に於ける供述
(二)の事実に付
(イ) ○口○ヨ○に対する身上調査に関する照会書竝回答書
(ロ) ○口○ヨ○に対する検事作成の供述調書
(ハ) 被告人に対する司法巡査作成の第一、二回供述調書
(ニ) 被告人に対する司法警察員巡査部長作成の供述調書
(ホ) 被告人に対する検事作成の供述調書
(ヘ) 被告人の当公廷に於ける供述
法令の適用
被告人の判示(一)及(二)の所為は何れも児童福祉法第三十四条第一項第六号第六十条第一項に該当するところ、各所定刑中罰金刑を選択し以上の関係は併合罪なるを以て刑法第四十五条第四十八条第二項を適用し其併加金額の範囲内に於て被告人を罰金八千円に処断すべく尚右罰金を完納することが出来ない時には刑法第十八条に則り金二百円を一日の割合に換算した期間被告人を労役場に留置すべきものとす。
被告人等は判示○本○子や○口○ヨ○は一見容姿体格が十八才以上に見え又同女等も十八才以上と申していたので同女等が十八才に満たない児童であることの認識がなかつたと主張するが人の容姿体格と其年令とは必ずしも一致するものでなく被告人が同女等の戸籍抄本なり食糧通帳を取寄せ調査し同女の年令を確認する等の処置をとらなかつたことは被告人の自認するところであるから、仮に被告人に於て同女等が当時何れも十八才未満であることを知らなかつたとしても知らざるにつき過失がなかつたものと謂うことは出来ない。又同女等は自由意思で売春したもので被告人が同女に淫行したものでないと主張するが然し乍ら児童福祉法第三十四条第一項第六号に云う「児童に淫行させる行為」とは淫行を強制させる等積極的行為は勿論であるが心身共に未成熟な十八才未満の児童をして淫行をなさしめることを助成し或は原因を与えるものと認められる場合を広く包含するものと解すべきは同法の趣旨から容易に看取せられるところである。然るところ、田舍の、多い日でさえ一日五、六人の客しかない被告人方に於て、被告人は同女等を雇傭するに給料を少しも与えず前借を初めからつくらしめ、客の酒席にはべらしめて得る心付を唯一の小使銭たらしめることは同女等をして自然と売春にはしらしめることになることは明にして斯る事実は夫自体同法に云う児童をして淫行をさせる行為に該当するものと云うべく被告人等の主張は採用すべきにあらず。依て主文の如く判決す。
(裁判官 山中仙蔵)